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キサゲをご存知でしょうか。これは金属加工法の一種ですが、手作業が中心の非常に手間のかかる作業であり、この加工を施された部分はあまり人の目に触れることがありません。そのため知る人ぞ知る技術といえます。
キサゲを施される場所は、機械の部品同士が面でこすれあう部分であり、このこすれあう面を摺動面と呼びます。機械が円滑に動くために摺動面はスムーズにこすれあう必要があります。しかし、滑らかに磨き上げた面と面とを重ねてみると、逆に滑り性が悪くなる場合があります。例えば2枚のブロックゲージを重ね合わせてみますと、いちど密着すると簡単には動かせなくなる現象が知られています。この現象をリンギングと呼び、もし機械の摺動面で発生すると機械の動作が阻害され、ひどいときには故障の原因にもなりかねません。
キサゲ加工はそのようなトラブルを防ぐために、摺動面を磨き上げるのではなく、微細な窪みをたくさん作ることで摩擦を抑えるとともに、窪み部分に潤滑油がたまりやすくすることで、スムーズな摺動面を確保しようとする手法です。熟練者が仕上げたキサゲ面は、何十年も稼働する工作機械に組み込まれたままでも摺動性を維持し、機械に要求される精度を維持し長期間の安定した稼働を支えることが可能になります。まさに精密機械の精度を支える裏方の技術というべきものであり、熟練の職人の緻密な技に支えられた技術といえます。
キサゲ加工を施された面は、細かいウロコ状の模様が観察できます。ある程度規則的に、表面を削って窪みをつけることで、そのような規則的な模様として見えるわけです。キサゲ加工を行う作業者が、鑿のような切削工具(スクレーパー、またはキサゲと呼ばれます)を用い、一つひとつ削っていくことで作業を進めていきます。
キサゲ加工を施された面は、細かいウロコ状の模様が観察できます。ある程度規則的に、表面を削って窪みをつけることで、そのような規則的な模様として見えるわけです。キサゲ加工を行う作業者が、鑿のような切削工具(スクレーパー、またはキサゲと呼ばれます)を用い、一つひとつ削っていくことで作業を進めていきます。
キサゲ面は作業者の習熟レベルで仕上がり精度が大きく左右されます。また、作業者ごとに得意とする削り方が微妙に異なり、それが仕上がり面の模様の違いとして現れます。仕上げ面の模様から連想された名前が様々にあり、例えば三日月、千鳥、市松などと呼ばれております。キサゲ面を見れば、誰が仕上げたか判るとまで言われるほどに、作業者の職人技が個性として模様にあらわれます。またキサゲは平面研削以外の方法で、非常に高い平面度を確保することができる加工法としても知られています。平面度を出すための手段として、光明丹という一種の塗料を使います。
光明丹は四酸化三鉛(Pb3O4)を主成分としており、橙赤色という非常に目立つ色をした物質です(鉛丹または赤丹ともいいます)。キサゲ加工では、通常は粉末の光明丹を油で溶いてペースト状にしたものを用います。加工の一例ですが、平面度が保証されている定盤などに光明丹を均一に塗り、キサゲ加工を施した面を押し当てて摺り合わせます。その結果、キサゲ面のうち不均一に高いところに光明丹が付着し、赤く目立ちます(これを赤当りといいます)。この赤当り部分をさらにキサゲ加工して、高さを均していくことでキサゲ面の微妙な平面度の狂いを修正していきます。光明丹はキサゲ加工に必要なものですが、鉛の化合物ですので毒性を考慮しますと取り扱いには細心の注意を要します。
手作業であるキサゲ加工で面を仕上げることで、限りなく理想的な平面を作りだすことができます。一般的には、三面定盤摺り法と呼ばれる方法が知られています。なぜ、二枚ではなく三枚が必要なのかを考えておきますと、二枚ではそれぞれが平面になっていなくとも、下の図のA、Bのように偶然に合致してしまう可能性があるという問題点が指摘できます。
このように二枚で平面を出そうとした場合ですと、光明丹で摺り合わせチェックしても凹凸が把握できないということになります。
一方で、三枚で摺り合わせていきますと、平面になっていないが偶然に合致する二枚が含まれているとしても、残り一枚との摺り合わせで異常に気付くことになります。三枚の定盤を交互に摺り合わせる作業サイクルでキサゲ加工を行い、それぞれを摺り合わせても凹凸が出なくなるようにすれば、三枚とも平面が出たとみなせるという理屈になります(三面定盤の原理と呼びます)。下の図に示しますように、a、b,cの三枚の定盤を用意し、それぞれを交互に摺り合わせて見つかる凸面(赤い点線で示した部分)をキサゲ加工していくことで、a’、b’、c’の3枚として平面に仕上がっていくイメージです。
必要に応じてこのサイクルを2回、3回と繰り返すことで、三枚ともそれぞれ完全な平面に仕上げる事ができます。